
『パーティーが終わって、中年が始まる』って、どんな本?
読書が好きなわたしですが、雑食的に本を読み漁っているので、ファンといえるほど好きな作家というのはほとんどいません。
そんなつまみ食い読書家であるわたしの数少ない好きな作家の一人が、今回紹介する『パーティーが終わって、中年が始まる』の著者であるpha(ふぁ)さんです。
ご存じない方のためにphaさんのことをちょっと紹介したいのですが、一言で表現するならば「日本一有名な元ニート」に尽きるでしょう。
京都大学を卒業するという秀才ながら、28歳で仕事を辞め、そのあとは定職に就かず、シェアハウスを運営したり、ブログや本を書いたりしながら、社会的評価よりも自由を求めて生きてきたスーパーエリートニートがphaさんなのです。
定職に就かず、家族も持たず、縛られることなく自由に幸せに生きたいという姿は“一般を生きる”人からすると異色な生き方のはずなんですが、phaさんから紡がれる言葉たちは社会に生きづらさを感じている人の共感を呼び、わたしもその一人というわけです。
さて、そんな自由を謳歌しながら20代後半~30代を過ごし、とうとう40代という年齢に入ったphaさんが執筆したのが、『パーティーが終わって、中年が始まる』。
40代という人生の節目を迎え、少しずつ変わっていく自分の心情や生活について書かれたエッセイは、誰もが通る道でもありながら、こうして文章化されると心に刺さるものがあります。

パーティーが終わって、中年が始まる:感想・考察・名言
『パーティーが終わって、中年が始まる』というタイトルは、なんか物寂しさを誘うというか、読む前から(聴く前から)ワクワクするような、内容を知るのがちょっと怖いような感じ。
そして、読んでみてビックリ。驚き桃の木山椒の木。あのphaさんがこんなふうになるなんて…。
これまで本を読み続けてきたから一読者からすると、驚きもあるし、悲しくもあるし、そして自分自身を鑑みると納得感もある。
もし今までphaさんの本を読んだことがなければ、『パーティーが終わって、中年が始まる』を読む前に昔の本を読んでおくのおすすめ。
というのも、phaさんの文章は心情の描き方がうまいので、phaさんのこれまでを知らなくても『パーティーが終わって、中年が始まる』を単独で読むだけでも十分に楽しめるのですが、ライフステージが中年という段階に入った男性の心境変化を綴った内容なので、それ以前の状態を知っているほうが圧倒的におもしろく読めるからです。
わたしの一番のお気に入りは、2015年に出版された『持たない幸福論』。
自由で幸せに生きたいと願うphaさんが社会的な問題も絡めて考察したエッセイで、立場も性別も違うけれど共感できる部分も多く、phaさんがイキイキと文章を書いていたときの代表作品でもあり、今まで何回も読み返しています。

さて、『パーティーが終わって、中年が始まる』に話を戻すと、「男性は40代になるとそんなに急に中年を感じるのか」というのがわたしの率直な驚きでしたね。
なぜなら、自分は40代になる前からとっくに中年感を感じていたからです。
phaさんのように体力・気力が元から人より少なめの人間なんですが、30歳前後で子どもを出産した以降は磨きがかかり、ちょっとしたことでヨレヨレになってしまうようになったので、そのあたりから“自分はオバサン”という感覚が芽生え、受け入れざるを得なかったんですよね。
最近は頭の働きが悪くなっているのをより感じますし、ちょっと脂っこいものや生ものを食べすぎると体調が悪くなったり、家の中でつまづいたりするようになって、頭だけでなく体の衰えもなかなかきてます。
だから、phaさんが40歳になってから肉体的にも精神的にもピークを越えてしまったのを嘆いているのが意外というか、今までなかったの?とも思ってしまう。
わたしの周囲の女友だちを見回してみると、出産を経た人は30代でも気持ちが“オバサン”になっているにもかかわらず、出産をしていない人は元気溌剌としていて40代半ばになってから「最近、体力が落ちてきた」なんて言っているので、性差というよりも出産・子育てというのが肉体的にも精神的にも影響があるのかもしれないですね。
そして、常々わたしが思っていて、phaさんが代弁してくれたと感じたのがこの文章。
そんな自分でも、最近は若者と話すたびに、目上の人として気を遣われていることを感じる。
自分が否応なく存在感や権力を持ってしまっていることを自覚せざるを得ない。
こんなつもりじゃなかったのにな。
年をとっても内面は大して若いときと変わっていないから、据わりの悪さを感じる。
子どものころに想像していたよりも、自分はいつまでも“大人”になりきれていないという感覚がわたしのなかにはいつもあるんですが、この感覚を“大人”の先輩である親に話しても、不思議がられるばかりで納得してはもらえない。
世間から見たら“立派なオバサン”で、自分でもそれはわかっているのだけれど、自分がイメージしていたよりも未熟なままに感じてしまうのは、期待値が高すぎたのか、本当に未熟なのか…。
自分なんかはphaさんのように社会的に評価されることもなく、あのときがピークだったなんていうのはいつなのかもわからないような人生を送ってきたタイプなので、衰えを嘆くほどのピークを味わってきたphaさんが羨ましくもあります。
いづれにしても、phaさんの文章は相も変わらず率直で、老いて自分の能力や感性が衰えていくことの苦しみや苦悩がひしひしと伝わってくるのはさすがですし、長きにわたりモラトリアムのような生き方をしてきた一人の人間が中年期へ入っていく心境を瑞々しく綴った、今しか書けない傑作本といってもいいのかもしれない『パーティーが終わって、中年が始まる』でした。
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