
『養生訓』をご存じですか?
一般的には健康にまつわる本として知られていますが、なかには人生哲学のような生き方にかかわるような内容もあります。
今回の記事では、シンプルな暮らしを目指しているわたしが、『養生訓』を読んだなかで心に響いた文章についてお話したいと思います。
『養生訓』はどんな本?
『養生訓』は、江戸時代の儒学者・貝原益軒によって書かれた、健康長寿のコツをまとめた本です。
当時、この本は大ベストセラーだったそうですが、今も現代語版や解説書が繰り返し出版されるほど時代を超えて読みつがれています。
というのも、平均寿命が50歳にも満たなかった江戸時代において、貝原益軒が『養生訓』を出版したのはなんと83歳のとき。
その健康長寿の秘訣を知りたいと、たくさんの人が本を読みたがったのも納得ですよね。

完全無欠を求めるな
『養生訓』は健康で長生きに暮らすためのアレコレについて書かれた本ですが、なかには人生訓的な内容もあって、これが実に奥深いのです。
わたしは手持無沙汰なときに『養生訓』を読んだりするのですが、最近を読みなおすなかで、これはと思ったのが次の文章です。
すべてのことに完全無欠であろうとすると、自分の心の負担になって楽しみがない。
さまざまな不幸もこうした考えから起こる。
また他人が自分にとって最上につかえてくれることを求めると、他人のたらないことを怒りとがめるので、心の苦痛になる。
そのほか日常の飲食、衣服、住い、草木なども美しく非のないものを好んではいけない。
多少でも気にいったものでよい。
完全無欠によいものを好んではいけない。
というのは、これも気を養う工夫であるからである。
引用:『養生訓 全現代語訳』(著:貝原益軒、訳:伊藤友信)
わたしはどちらかというと、好き嫌いがはっきりしていて、こだわりが強いタイプ。シンプルな暮らしを心がけるようになってからは、そのこだわりがより強くなっているのを自分でも感じています。
シンプルな暮らしを目指し、家のなかにあるものを整理していくと、モノの数は次第に少なくなっていきます。
すると、家中がたくさんのもので溢れかえっていたときよりも、ひとつひとつのモノの存在感が大きくなり、欲の深いわたしは
「手に入れられるモノは少ないのだから、自分がすごく気に入るものがいい」
と、どうしても考えてしまいます。
ところが、そんなわたしの心を見透かしたかのように、益軒翁は「完全無欠によいものを好んではいけない」とおっしゃっているわけです。
たしかに、完璧に自分が気に入るモノを探すというのは、かなりの労力です。
何かを買うとなったら鬼のように検索しまくる、検索好きなわたしですら、「もう情報はお腹いっぱい」という検索疲れに陥るのもしばしばです。
しかも、モノも情報も一生かけても見尽くせないほどすでに溢れているのに、それでも尚、手を変え、品を変え、新しいものがどんどん出てくる世のなかでは、完全無欠によいモノを手に入れるのは至難の業。
完全無欠によいものを求める暮らしをしてしまうと、いつまでたっても充足感を得られない世のなかにわたし達は生きているのです。
まるで、そんな先の時代を見据えたかのように
「世のなかのベストを探すのではなく、自分にとってナイスなものを大切にし、ストレスを過剰に抱えることなく穏やかに過ごしなさい」
と、益軒翁はわたし達に語りかけます。
たとえ完璧でなくとも、「自分にはこれがいい」というところで満足すれば、それ以上を求める必要も、周りと比べる必要もなく、安寧な気持ちで日々を過ごせるので、ストレスも減りそうです。
すでに十分に満ち足りているはずのわたし達は、江戸時代の賢者からのメッセージを改めて考えるときが来ているのかもしれません。

おすすめの『養生訓』
『養生訓』を読むと、今の暮らしがどれだけ贅沢なのかがよくわかり、反省するとともに、江戸時代の価値観や暮らしを垣間見ることができて面白いです。
300年以上も読みつがれているベストセラーゆえに、解説書や現代語訳もいろいろと出ていますが、わたしが読んだなかで読みやすいものを紹介しますね。
『養生訓 全現代語訳』
わたしが愛読しているのはこちら。
伊藤友信氏による現代語訳で、崩しすぎず、かといって堅苦しくて読みづらいということもない、絶妙なバランスに仕上がっています。
今回紹介した文章は、この本から引用しています。
『超訳 養生訓 病気にならない体をつくる』
「もっと気軽に養生訓を読みたい!」という方におすすめなのは、こちらの超訳バージョンです。
現役医師による現代語訳で、先ほどの『養生訓 全現代語訳』と比べると、より現代的な言葉遣いになっているので、堅苦しい文章は苦手という方はこちらのほうが読みやすいです。
今ならAudibleで無料で聴くことができるので、家事をしながら、通勤の途中で聴きたいという場合には、Audibleを試してみるのもいいかもしれないですね。
まとめ
完璧を目指すことは、一見いいことのように思えますが、気づかないうちに心や体をじわじわと疲れさせてしまうこともあります。
『養生訓』が教えてくれるのは、不完全さを受け入れることこそ、心地よく生きるための知恵だということ。
すべてが完璧じゃない、ちょっと気に入ったもので、ちょっと足りないくらいの暮らしが、実はちょうどいいのかもしれません。
不完全という余白に、本当のゆとりや楽しさがひそんでいるのかもしれませんね。